がけ条例とは?【がけ地の建築規制】

家と崖

はじめに
・・・よくある誤解:
「がけ条例」という言葉

不動産取引や建築計画の際、「がけ条例」という言葉をよく耳にします。しかし、実は「がけ条例」という名称の条例は正式には存在しません。これは業界用語として慣習的に使われている通称であり、実際の法規制は異なる法令や条例によって定められています。
 〇〇県がけ条例という条例はありません。

がけ地の建築規制の法的根拠

がけ地における建築規制は、主に以下の法令等に基づいています。

  • 建築基準法第40条・・・地方公共団体が条例で建築規制を追加できる根拠となる条文であり、この条文に基づき、各自治体が条例でがけ地の建築規制を定めています。
  • 急傾斜地の崩壊による災害の防止に関する法律(急傾斜地法)・・・がけ崩れの危険がある区域を「急傾斜地崩壊危険区域」として指定区域内での開発行為や建築行為を規制
  • 各自治体の条例・・・地域の特性に応じた具体的な規制内容を規定。がけ地付近での建築制限や構造基準を定める。

がけ地の定義

法令上の「がけ地」は、一般的に以下の条件で定義されます。

  • 地表面が30度を超える傾斜地
  • 高さが一定以上(自治体により異なる)の斜面

岩手県の場合

がけの定義・・・30度を超える傾斜で、高さ2メートルを超えること

制限区域の範囲・・・がけ上端からがけの高さの2倍以内、または、がけ下端からがけの高さの2倍以内

岩手県の「建築基準法施行条例第6条」に崖の定義、建築規制等の規定があります。

簡単にまとめると

擁壁設置要件:高さ2メートルを超える崖であり、その上下に接する土地に建築物を建てたり、造成する場合は、①崖面が安全な場合、又は②建築物が崖崩れに対して安全な場合を除いて、擁壁を設けて安全を確保しなければなりません。

①崖面が安全な場合

  • 堅い地盤を切った崖面
  • 安定した地盤の崖面
  • 特殊な構造で安全が確保された崖面

②建築物が崖崩れに対して安全な場合

・建物の主要部分が鉄筋コンクリート造か同等の強度があり、崖崩れの影響を受けない構造である建築物を崖またはその下の土地に建てる場合

つまり、崖面自体が安全であるか、建築物の構造が十分に強固であれば、制限区域内での建築が可能ということです。

◎その他の規制内容

その他、がけ地での建築について次の規制があります。

  • 擁壁構造基準・・・高さ2メートルを超える擁壁は、建築基準法施行令や宅地造成等規制法に基づく構造でなければなりません。
  • 排水設備設置義務・・・崖または崖の上に接する土地に建築する場合は、適切な排水設備を設けなければなりません。

不動産取引時、建築計画の際の
注意点

がけ地に該当する場合、擁壁の設置、基礎の強化、地盤調査などの建築対策が必要となります。これらの工事方法、費用、申請手続きに要する期間などのメリット・デメリットを比較検討した上で手続きを進める必要があります。

そのため、がけ地に該当しない土地と比較して、追加費用の発生や建築計画の遅延などが生じる可能性があります。

まとめ

家の中

がけ地の建築規制は、建築基準法や各自治体の条例などによって重層的に定められています。

不動産取引や建築計画を進める際には、これらの規制内容を十分に理解し、建築士や土地家屋調査士などの専門家に相談されることをお勧めします。

建築基準法第40条

(地方公共団体の条例による制限の附加)

第四十条 地方公共団体は、その地方の気候若しくは風土の特殊性又は特殊建築物の用途若しくは規模に因り、この章の規定又はこれに基く命令の規定のみによつては建築物の安全、防火又は衛生の目的を充分に達し難いと認める場合においては、条例で、建築物の敷地、構造又は建築設備に関して安全上、防火上又は衛生上必要な制限を附加することができる。

建築基準法施行条例第6条←岩手県

 (崖)

第6条 高さ2メートルを超える崖(宅地造成及び特定盛土等規制法施行令(昭和37年政令第16号)第1条第1項に規定する崖をいう以下同じ。)又は当該崖の上に接する土地(崖の下端からの水平距離が崖の高さの2倍以内の土地をいう。以下同じ。)若しくは当該崖の下に接する土地(崖の上端からの水平距離が崖の高さの2倍以内の土地をいう。以下同じ。)に建築物を建築し、又は建築物の敷地を造成する場合は、次の各号のいずれかに該当する場合を除き、崖の形状若しくは土質又は建築物の位置、規模、構造若しくは用途に応じ、安全上支障がない擁壁の類を設けなければならない。

(1) 堅い地盤を切った崖面、安定した地盤の崖面又は特殊な構造方法による崖面で安全上支障がない場合

(2) 構造耐力上主要な部分(崖崩れによる被害を受けるおそれのない部分を除く。)が鉄筋コンクリート造、鉄骨鉄筋コンクリート造又はこれらに類する構造で崖崩れに対して安全な建築物を崖又は崖の下に接する土地に建築する場合

2 高さ2メートルを超える擁壁の構造は、建築基準法施行令(昭和25年政令第338号。以下「政令」という。)第142条並びに宅地造成及び特定盛土等規制法施行令第9条及び第10条の規定によらなければならない。

3 崖又は崖の上に接する土地に建築物を建築する場合は、その敷地に適当な排水設備を設けなければならない。

宅地造成及び特定盛土等規制法施行令

(定義等)

第一条 この政令において、「崖」とは地表面が水平面に対し三十度を超える角度をなす土地で硬岩盤(風化の著しいものを除く。)以外のものをいい、「崖面」とはその地表面をいう。